家を出る5分前

彼の家の中は時間が止まってる時みたい

いつも遮光カーテンを閉めてて、

電気もつけてないし

6畳には見合わない42型4Kテレビは

時間帯らしい映像は流さず

YouTubeで音楽を流すかゲームをしてる

そんな空間がすきだ

時計なんか気にせずベッドにいて、お話しして、くっついてていいから。

一生そこにいて言い訳でもない

お互いの予定のために出かける準備をして

乗る電車を調べて

時が止まった空間に時間が流れ出す

それと同時に頭の中に彼と離れる日々までのカウントダウンが始まった

彼に触れられる日を冷静に数えて

あと5日

急に触れてる腕が恋しくなった

「ぎゅーして」

もう家出るよーーって

亀のこうらみたいに上に乗ってた私は

わざわざ離れてわがままをいう

声色で気づいたのか、めんどくさがらずに優しい顔で強く抱きしめてくれる

前戯でもなくただの深い愛

あつくてきつくて   でも腕はやわらかくて安心する

自然と彼の肩に私の顔が乗る溶け込み具合

これをあと5回しか味わえないのか

再びしてもらえるまであと2年かかるのか

いやだなって思った

「……やだ。」

それだけ言って喉が苦しくなった

息を止めて泣くのを我慢するから胸が激しく上下する

きっと彼の肩は私の胸の動きもヤダの意味も気づいてる

でも知らないふりして

「あおちゃぎゅーーー」

って言いながら私の体を包んでゆさゆさしてくれる

そのあたたかさに耐えきれずに涙が出てきた

思わず離れて顔を背ける

泣き顔を見て欲しくなかったから

顔を戻すと慣性の動きに合わせて涙がこぼれた

「泣かないで〜〜〜〜」

頬にキスされた

もうこの声を聞けないのか、顔も見れないのか、平均体温が高いカイロみたいな体に冬はくっついて夏は暑がりながらじゃれあえないのか、足を絡ませて寝られないのか、寝ぼけて私の体に捕まってくる腕を撫でながら寝られないのか、

私の涙は正直で

嫌だと思うたびに涙が出てくる

彼の腕に乗った涙を

「ごめん舐めちゃった」

とか言って拭き取ったりしてくる

「出かける前でね、ちゃんとお化粧してるもんね、お化粧が取れないようにね、無害そうなこのへん(ほっぺ)にちゅーしとくからね」

かわいい

精一杯笑って、

目を閉じて、くちびるにキスした

ああー幸せだと思う

やっぱり涙が出てくるから

口が震えて力が入ってくる

いつも「あおちゃくちびる柔らかいねー」って言ってくれるけど

今回はやわらかくなかっただろうな 笑

もう家を出る時間だったから

ちゃんと涙拭いて

よし！いってくるね！って言う

「じゃあねバイバイまたね」

扉を閉める

バタンって後ろで聞こえた

ああ、合鍵も返さなくちゃいけないのか。

そんなこと考えながら階段降りてたらこけそうになった